GAP 1969 MAGAZINE

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INTERVIEW

木本勝也
vol.2

『100年後も“流行の先端に”
和菓子に新風を吹きこむ』

京都府/UCHU wagashi
代表取締役

木本勝也KATSUYA KIMOTO

京都市上京区

日本各地で活躍する人々の個性にスポットを当てる『INTERVIEW』シリーズ第2弾。老舗和菓子店が軒を連ねる京都で、2010年西陣に新たに誕生した『UCHUwagashi』。落雁の上質な味わいと、これまでにに見た事のないような見た目のキュートさが話題になり、瞬く間に人気店に。前職はグラフィックデザイナーだったという代表の木本勝也さんをたずね、ここまでの苦労や喜び、その道のりをお伺いしました。

Photo:ARI TAKAGI Text:NORIKO OBA
Edit:RHINO INC.

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京都に戻ってきて感じた、仕事への疑問。

── まず始めに、木本さんが2010年に立ち上げた和菓子店『UCHUwagashi』が誕生するまでの経緯を教えてください。前職はグラフィックデザイナーだったとか?

そうです。大学のころはキャラクターにおけるマーケティングを研究していて、卒業後はサンリオに入社しました。特にキャラクターものを蒐集したり、好きでもないのですが(笑)、制作物として興味があったんです。キャラクター製品というのは独特で、工業製品を無機質なマスのものだとすると、そこに温かみを加えたような、ちょうど無機質と有機質の中間にある感じがします。昔から大量生産のなかにつくり手の作家性がバランスよく入っているものが好きで、それは今つくっている和菓子にも通じています。その後、もう1社を経て25歳のときにフリーランスになり、このタイミングで京都に戻りました。

── そこから“和菓子”をつくるというのは、大きな方向転換だと思いますが、何かきっかけがあったのですか?

京都という土地柄、まわりの友人が家業を引継ぐなど、“継承していく仕事”に就くのを間近で見たこともあって、自分の仕事に疑問がわいたんです。その頃は僕自身も多くの仕事を抱えていましたが、「自分がデザインしたポスターは、どんなに目立つ場所に大きく飾られたとしても、数ヶ月後には消えてなくなるんだよな」と。

せっかくこの土地にいるのだから、自分も“年月とともに積み重ねていく”ことがしたいと、「自分にできること」を探すためにリサーチを始めました。


駅の土産やで見つけた、進むべき道。

── どんなことを調べたのですか?

本や観光白書を読んで京都にまつわる観光データや文化のこと、あらゆることを調べました。資料からは、観光客が買う土産物ナンバーワンは「漬け物」、第2位が「お菓子」ということもわかりました。

漬け物は僕にはつくれないので、2位のお菓子を調べていくうちに、茶道の確立に伴って発展した“茶席菓子”がすごく気になったんですね。そこから茶席とは何か、茶席菓子の存在意義って何だ、と京都中の和菓子屋巡りも含めて1年かけて調べました。

── だんだん和菓子へと方向が定まっていくのですね。

今でもはっきり覚えていますが、「この仕事をしよう」と決めた瞬間があって。ある時、京都駅付近の土産やで老舗店の和菓子をずらっと並べたショーケースを見ていたのですが、商品が「全部同じ」に見えたんです。すべてが茶色、紫、黄土色の世界。ふと「ここにマリメッコのデザイナーがデザインした色とりどりの菓子が並んだら…」と想像したら、楽しくてたまらない気持ちになりました。同時に「自分がデザイナーとしてやることが見つかった!」と。


未経験から挑む和菓子づくり

── その後『UCHU wagashi』を立ち上げて、木本さんは、落雁(※)のデザインから製造までひとりで行いますが、和菓子づくりの経験がないのに自分でやろうと思ったのはどうしてですか?

※砂糖や和三盆など粉状のものを成形してつくる干菓子

やむを得ず、というのが正直なところです。僕は別に和菓子職人になりたかったわけではなく、これまでの和菓子とはまったく違う新しい“ブランド”をつくりたかったんです。なので、最初は販路も製造機もある和菓子会社をパートナーに、自分はプロデューサーのような立場で仕事ができれば思っていました。そして実際に2社ほど実現一歩手前まではいったのですが…。

── 形にはならなかった?

相手は何百年ものれんを守ってきた企業で、僕のような和菓子経験もない若者がいきなり入り込むというのは、今考えれば、無茶やったとは思います。が、打ち合わせを重ねるうちに、相手が新しいものに振り切れない、守りに入るのが見えて、このまま実現しても無意味だと感じました。自分としては、ショーケースを前に感じた「これはおもしろい!」というあの感覚を100%、完全な形で商品に乗せたかった。ならば全部自分でやるしかないという結論に。


いいモノは、必然性から生まれる

── ひとりで全部やると決めて、もっとも大変だったことは何ですか?

一度『UCHUwagashi』のコンセプトからデザインまで全部練り直したことがありました。というのも、すごく信頼して尊敬している大先輩のデザイナーに、このブランドの構想を話し、企画を見てもらったときの感想が、「ダメだな、つまらない」というひと言だったんです。

それが本当にショックで、数日ごはんも食べられないくらい落ち込みました。僕は、かなりの負けず嫌いですし、悩む前にすぐ行動するタイプなので、こんなに打ちのめされたのは人生初。妻からも「死んでるみたい」と言われるほどでした。

── どうやって立ち直ったんですか?

もう一度案を見直して「果たしてこれは本当にいいモノだろうか」と徹底的に考えました。すると、アイディア自体はおもしろいけれど、中身は空洞だらけだとわかりました。それまで僕は「おもしろいモノ」は感覚でつくるものだと思っていたのですが、それは違いました。「おもしろい!」と感じた瞬間のアイディアなんて、たかが知れていて、大した存在意義なんかないんですよね。

いいモノが生まれるには、必然的な価値があり、そこにはきちんとした理屈があること。たとえ、その必然性がデザインとして表に出なくても、お客さんに直接的に伝わるものじゃなくても、どしっとした理屈がないモノは、価値として続かないことを痛感したんです。

── 先輩のひと言、すごい威力でしたね。

正直、ここが分かれ道だったと思います。あのままスタートしていたら、3日で飽きられたと思いますね。改めてピンチはチャンスなんやなと。。

── コンセプトを見直すと同時に和菓子づくりも始めたのですね。ちなみに落雁は、どうやってつくるのでしょうか。

つくり方はシンプルです。最初に和三盆糖や混ぜたい味の粉を入れて、水を加えてもみあわせ、それを木型のなかに押し込み、1日から1日半乾かせば出来上がり。いたって簡単ですが、レシピを決めるのは緻密な作業が必要です。

粉や水の分量を、0.1mg単位で変えていき、膨大な組み合わせのなかからどれがもっとも美味しいのか、実験を繰り返します。そして、これ以上いい配合はないという突き詰めたレシピでつくると、不思議とツッコミどころがないような、お菓子に表情というか、オーラのようなものが出るんです。僕自身は実は甘いものがあまり好きじゃないのですが、そのことがいい作用を生んでいると思っています。

── え!好きじゃないんですか?

はい。だからこそ、レシピは好みに頼らず、徹底して研究し、俯瞰で選択できる。長所だと思っていますよ(笑)。


100年後も新しいお菓子であるために。

── 箱に入った落雁のピースを組み合わせて、形をつくることができる 『drawing』シリーズ、愛らしい動物が並ぶ『animal』シリーズの商品は、オープン当初からありますね。どのように誕生したのですか。

『drawing』シリーズは、最初にできたデザインで、僕がもっとも大切にしている和菓子です。この商品は茶席菓子の意義である「人をもてなすとはどういうことか」を考えたところから生まれました。茶人千利休は、客人をもてなすときに、食事も菓子も、器までも自分でつくって、 お茶を立てたそうですが、茶席に本来ある「人のために行為をする美しさ」を和菓子で体現できないか、と考えたんです。落雁のピースを、春なら桜、夏ならお魚、のように四季になぞらえて形づくってお客さんに振る舞う、何かしらの行為を加えられるお菓子がつくりたかった。

『drawing』シリーズ

『animal』シリーズはもっと単純で、ココアとバニラ味のかわいい落雁で、小さな頃から茶席に親しんでもらいたいという願いを込めてつくりました。『drawing』シリーズや『animal』シリーズは、この先100年、デザインを一切変えずに続けたいですね。

『animal』シリーズ

── 100年ですか

昔からある和菓子は、江戸時代から変わらないなど、「古くなっていくこと」をよしとし、そこに価値があると思うのですが、『UCHUwagashi』は、歴史の部分では絶対に勝てませんし、むしろ真逆の「常に流行の先端である和菓子」でいたい。

よく例えに出すのですが、マリメッコ柄の代表でもある大きな花柄の「ウニッコ」は、50年前に誕生したとは思えない新しさを今も感じます。同じように『drawing』や『animal』も、100年後に見ても「新しく感じる」商品でありたい。それがコンセプトであり、チャレンジしたいことです。

── そんな想いから誕生したのですね。新しい商品をつくるとき、お菓子のイラストはどうやって考えるのでしょう?

イラストは、ストーリーから考えることが多いですね。「スイミー」のスケッチもそうですが、理屈を考えながらデザインを練るので、横に文字をたくさん書いているものも特徴ですね。

──「京都ものがたり」という商品もありますが、木本さんにとって、京都の魅力は何でしょうか。

やっぱりモノづくりの町であることでしょうか。芸術系の大学も多いですし、モノを生み出すモチベーションがあるところですね。

京都の風景が描かれている『京都ものがたり』シリーズの落雁

── 商品づくりをする際のインスピレーションはどこから?

デザインのアイディアを練るときは机から離れて、ただスタッフと話したり、店に出てお客さんを観察したり、その間にも常に頭のなかで考え続けていると、あるとき必然性とともにボンと生まれます。

必然性が高まってきた、アイディアが生まれるぞ、というときに始めてMacの前に座り、大音量で音楽を流し、1、2時間で一気にまとめます。スタッフも音が流れ始めたら「あぁ今、生んでるんだ」という感じで誰も近寄ってきません(笑)。半ば儀式のような感じですね。

──どんな音楽を聴くのでしょうか?

特に決まっていません。リズムが激しく、体が自然に動き出してテンションが高まるものなら、ロックやパンク、ヒップホップなんでもアリです。普段はね、全然違うんですよ。もっとメロディアスでメランコリックなものを聴いています。ジェイソン・ムラーズやトラヴィスなど、音のなかに風景も京都の風景が描かれている『京都ものがたり』シリーズの落雁入っているような叙情的な音楽が好きです。

YMO

ジェイソン・ムラーズ
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── 木本さんが、仕事でやりがいを感じるのは、そういったアイディアが生まれるときですか?

最近は違いますね。ひとりで立ち上げてから10年経ち、現在は職人が4人、従業員が13人ほどいます。僕の心境もだいぶ変化して、今は企業をつくることや、ブランドを育てることが楽しい。スタッフの成長を感じるときが、いちばん嬉しいです。

木本さんの一番弟子であるこちらのスタッフが木本さんによく言われるのは「自分のために働くな。お客さんを喜ばすことが目的なら、いい加減な仕事はできなくなるから」という言葉だそう。


シャツで仕事のスイッチを切り替える

── ファッションについても教えてください。普段はどんなスタイルが多いですか?

オンもオフもほぼ1年中デニムスタイルです。特に洗いのかかっていない生デニムが好きでよく穿きますが、そのせいで家のチェアが青くなることも(笑)。初めてストレッチデニムを穿きましたが、これは座り仕事などの作業にもいいですね。すごくラクですし、リラックスできます。

── 普段はどんなデニムスタイルを?

仕事のときは必ずシャツを着ています。商談がある日はブルーのオクスフォードの生地で固めの印象にしたり、何もないときは明るい色のチェック柄シャツで遊んだり、シャツでその日の気分やTPOを使い分けています。休日はTシャツとデニムのようなカジュアルスタイルです。


和菓子の可能性は宇宙大

── 店内に入るとき、最初にゆるやかなスロープをのぼってショーケースの前にたどり着くのがおもしろいと思いましたが、これには何か意味が?

ガラっとドアを開けて、買って、またガラッと帰っていくという直線的な動きではなく、スロープでまわり道をつくって、少しでもお客さんの滞留時間を引き延ばしたい、僕たちがお客さんと接する時間を増やしたかった、というのがいちばんの理由です。お客さんも坂をのぼりながら横の棚の商品を見たり、帰りは余韻を楽しんでもらえたら。

── スロープをあがってくるときに見える、お庭の緑もいいですね。

店の前を通った人の目線の高さに合わせて、庭の緑が額縁に入った絵に見えるようにつくりました。朝日と夕日が当たる位置に合わせて、壁の色も変えて、時間によって通り過ぎる人に違う景色が見えたらいいなと。

── お客さんだけでなく、前を通りかかる人にも楽しんでもらう仕掛けがあるんですね。最後に、今後の目標を教えてください。

立ち上げたころ、「二兎を追うもの一兎も得ず」の精神で、まずはお干菓子をしっかりやるんやと決めていましたが、これからは少しずつお干菓子以外にも取り組んでいきたい。『UCHUwagashi』は、「和菓子には宇宙のように無限の可能性がある」という意でつけた名前。その可能性に挑戦しつつ、人を幸せにする和菓子をこれからもつくっていきたいです。


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UCHU wagashi
http://www.uchu-wagashi.jp/

木本勝也(きもとかつや)さん

京都の大学を卒業後、大手企業2社でグラフィックデザイナーとして働いた後、フリーランスのデザイナーに。その後、落雁に新たなアイディアを吹き込んだ干菓子をつくる『UCHU wagashi』を2010年12月に誕生させる。西陣店/京都市上京区猪熊通上立売下ル藤木町786 寺町店/京都市上京区寺町通丸太町上ル信富町307


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