GAP 1969 MAGAZINE

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INTERVIEW

佐藤 友佳理
vol.2

『新たな和紙の可能性を
“最先端の田舎”から
世界へ発信!』

愛媛県/和紙デザイナー

佐藤友佳理YUKARI SATO

愛媛県西予市宇和町明間

2016年1月には、ロンドンのギャラリーでの展覧会も話題を呼び、今注目を集める和紙デザイナー佐藤友佳理さん。緑豊かな湧き水の流れる土地、愛媛県明間の工房を訪ね、新たな和紙の可能性を探求する彼女の情熱やアイディアの源についてお伺いしました。

Photo:ARI TAKAGI Text:NORIKO OBA
Edit:RHINO INC.

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モノづくりの醍醐味を知った、ロンドンでのモデル活動

── 工房に入ると、窓からは山々の景色が見えて、鳥のさえずりやカエルの鳴き声が聞こえてきます。いいところですね。

ありがとうございます。ここは祖父母が住んでいた家の敷地内ですが、もともとは畑と牛舎だったんですよ。2012年に工房に改装して、内子町という場所からここ明間(あかんま)に移ってきました。今でこそ大好きな土地ですが、その魅力に気付いたのはだいぶあとのことです。高校生のころは「こんな田舎いやだ!早く東京に出たい!」と毎日思っていましたし、実際すぐに上京しました。

── 上京後、東京ではモデルとして活動したあと、ロンドンへ行ったそうですね。

東京でのモデル活動は、無理なダイエットから皮膚の病気になってしまったりと、正直言ってあまりうまくいきませんでした。それで違う方向性をと考えた結果、幼いころから絵が好きだったこともあって、メイクアップを学びたいと語学の勉強も兼ねてロンドンに留学したんです。といっても、結局到着後3日目にはまたモデルの仕事を始めるのですが。

── それは何かきっかけが?

到着後、日本の食材などが売っているお店にふらっと入ったのですが、そこの掲示板にロンドンの芸術大学の学生から「卒コレの日本人モデル募集」のメモを偶然見つけて、すぐに電話したんです。きっと、心のどこかでまだモデルの仕事に未練があったのでしょうね(笑)。その撮影からトントン拍子に事務所も決まり、仕事も順調に増えて「ID」や「コスモポリタン」などのファッション誌やカルチャー雑誌にも出られるようになって。

── 海外での仕事はどうでしたか?

すごく楽しかったです。今思い返しても、20代のころに第一線で活躍しているクリエーターたちのモノづくりの姿勢を間近で見ることができたのは本当によかったと思う。各ジャンルのプロが、自分の力を最大限に出し、ひとつのモノをつくるときのエネルギーって、変な競争やプレッシャーは一切なくて、現場もすごくリラックスしていますし、やりとりもスムーズ。私は今、人とコラボレーションする仕事が多いのですが、このときに見た彼らの佇まいや人との接し方を、お手本にしています。


大きな挫折感のあと、自分探しに費やした時間

── 帰国して、東京に戻ってきてからはどのような活動を?

25歳までロンドンで活動し、ある程度の実績も作品集もできたので、「東京でモデルとしてリベンジだ!」なんて気持ちで帰国したのですが、結果は大苦戦…。雑誌のカラーに合わせて、コンサバな服を着てオーディションを受けても、自分でも「これって私らしいの?」と、迷いながらカメラの前に立つのでパフォーマンスも落ちますし、仕事は全然増えなくて。意気揚々と戻って来たのに、すぐに自分は向いていなかったんだと大きな挫折感を味わいました。

それで、自分に向いていること、本当にやりたいことを探そうと一度すべてをリセットしたのですが、このときは荒れましたね。けっこう長い間「自分探し」の暗いトンネルにハマりました(笑)。やさぐれて、焦って、いろいろなことに片っ端から手を出しました。友達とアクセサリーショップを起業したり、ハードロックバンドを組んだり、その合間に神社仏閣巡りをして、と方向性もばらばら(笑)。

── ハードロックバンド! 意外で気になりますが(笑)。その後はデザイン学校に通い、和紙デザイナーとしての道が開けていきます。

「桑沢デザイン研究所」に通っている途中、愛媛県内子町で始まった“手すき和紙”の復興プロジェクトに携わることができたんです。新たに開発された「呼吸する和紙」(※)を使って、「女性に喜ばれるモノ」をつくることを任命され、デザイン案から完成まで任されました。

※湿度調節や消臭機能を有して、室内空間に癒しの効果をもたらす新開発の和紙。

── 修行する間もなく、いきなり実践が始まったんですね。

はい。今までになかった和紙のあり方を模索することが、プロジェクトの目的だったので、和紙の漉き方についても、伝統的なスタイルを受け継ぐのではなくて、「原料を入れた水槽に浸けて漉きあげる」という独自のスタイルを編み出し、即実践で商品をつくることに。

女性が喜ぶものって何だろうと考えて、真っ先に浮かんだのは、東京での生活に疲れ切った自分自身を癒されるものが欲しいということ(笑)。そこから発展させて、「頑張っている女性が、見ていてほっとできるモノ」をと、第1弾の商品になったのが、「モビール」。インテリアオブジェとして北欧で親しまれているモビールは、通常プラスチックでできていますが和紙という素材でつくったら、独特の風合いが出ておもしろそうだと考えたんです。

── きれいなレースが揺れているようにも見えますね。

和紙がレースのように見えるというアイディアもとにかく手を動かして試作を重ねているうちに生まれました。木の枠に20個以上の釘を均等に打ち、そこに規則的に糸をかけて、上から和紙を編んでいきます。すると、レースのような、幾何学模様のような、何ともいえない涼やかな雰囲気が出るんです。


キャンドルやピアス…etc.常識を覆すモノづくりが話題に。

── モビールのほかにも、和紙のピアスや和紙キャンドルなど、新しい試みが注目されていますが、佐藤さんのアイディアはどのように生まれるのですか。

商品のアイディアは、「和紙の弱点と言われることをどうやったらプラスの要素に変えられるか」と悩むところから生まれることが多いです。「紙はすぐ劣化するからアクセサリーなんてムリムリ」とか、「和紙をキャンドルにしたら燃えちゃうでしょ!」などの常識をいったん脇に置いて、「でも、そこをクリアしたら和紙ならではの魅力が出るはず」と、とことん考えます。ピアスは、小麦粉でできたのりをたっぷり塗ることで強度があがり、紙ならではの優しい雰囲気や軽やかさが出ましたネックレスやピアスなどアクセサリーもオーダー後すべて手づくりで行われる。

キャンドルは、防炎加工で安全性を確保しています。私は、紙には不可能だろうという固定概念を外す作業は大好きですし、和紙は、一見ネガティブに捉えられる要素が多いので、挑戦しがいがあります。

── だから今まで見た事ない商品が生まれるんですね。新たな試みの途中には、難しそうだと諦めそうになることも?

それは…あまりないですね。途中で無理だと辞めても、ある程度のサイクルが巡ると、似たよう問題が起きて結局同じ壁にぶつかるんですよ。なので、諦めてやめてしまうことって最終的には効率が悪いんです。あとは、私自身がかなりオタク気質なので(笑)、難しいことがあると「なんで」「どうして」と、どこまでも追いたくなってしまうという性格のクセでもありますが。

この仕事をする前は、自分でもそういうマニアックさに嫌気がさして、気持ち悪いなとか、なんでずっと考えちゃうんだろうとか、ダメ出ししていたこともあるのですが、この仕事ではその部分が生きるので本当によかったと思います。モノづくりには、人やモノ、生活を深く観察して「なんでなんで」と考え続けることが、新しいアイディアを出すにも欠かせないことなので。そうやって、いろいろな角度から見ると、何も克服しなくても、生かす方向でアイディアが出てくることもあります。

── たとえばどんな事でしょう?

和紙でいちばんマイナスと捉えられがちなのは「強度」ですが、それだって見方を変えれば大きな魅力になります。たとえばこの「手漉き和紙ボール」。これは「伝統を子どもたちにつなぐ」というコンセプトのブランド“aeru”さんとコラボした商品ですが、紙というやわらかい素材だからこそ、子どもたちが「壊れないように触れる」「大切に扱う」ことを楽しんだり、覚えられます。

くたくたになったものは、もう一度漉き直してリペアすることもあるのですが、ボロボロになるまで遊んでくれて、でもまだ使いたいと送られてくるボールを見ると、愛おしくて、嬉しくてたまらない気持ちになります。もしもこれが、固いボールだったらこんなレスポンスは生まれていないと思うと、強度がないこともすごく魅力です。


光ファイバーを編んで完成させた「かみのいえ」

── これまでの仕事のなかで、忘れられないこと、転機だったと感じることを挙げるとしたら何ですか?

中田英寿さんが立ち上げたプロジェクト「REVALUE NIPPON PROJECT」で、隈研吾さんと小山薫堂さんとご一緒させていただき、共作で「かみのいえ」を制作したことですね。

── どんなことが特に印象に残りましたか?

おふたりと一緒に打ち合わせをしたとき、彼らがあらゆる分野において知識が深く、発想や感覚が自由なことに圧倒されました。知識や発想や感覚が、話し合いのなかで縦横無尽に行き交いながら、思いもよらない方向に、そして、想像以上のものが生まれた現場に立ち会えたことは、貴重な体験です。いろいろな概念の壁を壊す姿を目の当たりにして、勇気をもらいましたし、自分のやっていることや方向性にも背中を押していただけたような気がしました。

中田英寿氏が主宰する、日本の伝統的な文化や工芸などの価値や可能性を再発見するプロジェクト「REVALUE NIPPON PROJECT」のひとつとして、完成した「かみのいえ」。作品のタイトルを命名したのは、小山薫堂氏。

── 「かみのいえ」は、まばゆい繭に包まれているかのような、ふわりとした光が印象的です。

この作品は、糸状にした和紙を使って、立方体の外側を編んでいるのですが、隈研吾さんの「和紙に光ファイバーを入れちゃおうよ」というひと言がきっかけで、和紙自体から光を発しています。想定外のアイディアに、すごいことをおっしゃる…と内心本当に驚いたんですよ(笑)。縦糸に光ファイバーを編み込んで、上方で光源をまとめています。落札されて、今はシンガポールの「Franc Franc」に飾られているはずです。


自然と対峙し、和紙と向き合う日々をこれからも

── ファッションについても教えてください。普段はどんなスタイルが好きですか?

今日は、いつも通り、作業をするときの服を着ています。さらりと羽織れるような肌触りのいいシャツや、動きやすいデニムが定番。ストレッチタイプのデニムはよく履きますが、これは着心地抜群ですね。シルエットもきれいですし、とても気に入りました。

── モデル時代とファッション観は変わりましたか?

別人というくらいに着ている服は変わりました。モデル時代は、自分らしさや着心地のよさよりも、激しさや攻めている感じが大事でしたが、年々シンプルにカジュアルになっています。唯一変わらないのは、モデル時代にスタイリストさんからいただいて以来履いている黒のコンバースかな。作業中もお出かけの日も愛用しています。履き倒しては新しく買ってと、代変わりしながらも履き続けています。色も形も無駄のないすっとした感じが好きなんです。

── 休日や仕事の合間の息抜きなどは、どんなことを?

趣味という趣味は、残念ながらなくて。息抜きは、工房を出て自然のなかを歩くこと。頭のなかがモヤモヤしていても、緑を見たり歩くたびに違う花が咲いているのを見るとホッとして、帰ってきたときには気持ちも落ち着いて作業に没頭できます。

── 工房には、スピーカーとレコードがあるのも印象的です。作業中は、音楽を聞きますか?

このスピーカーとレコードは、近所に住んでいる職人さんたちからいただきました。彼らは大漁旗やこいのぼりなどをつくっている職人さんですが、地元でラジオのパーソナリティもしていて、ある時ゲストで呼んでくれたんです。そのときに例の「昔、ハードロックバンドやってて」なんて話をこっそりしたら(笑)、「だったらプレゼントするよ!」と、すごく立派なスピーカーとレコードをくださったんです。

力仕事をするときやテンションをあげたいときは、ローリング・ストーンズの「スルー・ザ・パスト・ダークリー」を聴いたり、休日にまったり作業をするときは、デヴィッド・ボウイの「ロウ」をよく聴きます。すごく没頭できるんですよ。

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── 地元の職人さんたちといい連携があるのですね。ところで、これまで東京、ロンドンで暮らし、今地元について改めて感じることはありますか?

東京から愛媛に戻ってくるときは、けっこう不安だったんです。東京はユニークな人も多くて、最先端のものがあって、大量の情報が渦巻いて、そんな刺激を毎日自動的に浴びることのできる街から離れてしまったら、モノをつくる原動力がなくなるんじゃないかと思って。

でも、実際にここでモノづくりをしていると、朝、蜘蛛の巣に水のしずくがついている様子を見て、この繊細で美しい感じを和紙で表現できないかなと考えたり、自分がインスピレーションを受ける源が緑や花や生き物などの自然に変わっただけだとわかりました。誰かの手で加工された情報とはまた違う、そのままの姿の自然から受け取る感覚ははかりしれないものがあります。

── それは地元を一度出たからわかったことですか?

まさに。どこか違う場所に出るたびに、元いたところの素晴らしさを確認している気がします。そこにいるときは、あまりに当たり前で良さに気がつかないんですね。食べ物がこんなに美味しくて、広い工房をもてる土地があって、和紙をつくるための湧き水も豊富で。足元にはこんなに宝物があったんだ!って、改めて実感しています。この辺はインターネットの光も全域に引いているんですよ。「明間は、最先端の田舎だ!」って東京の友達にも自慢しています(笑)。

── 最後に、今後について教えてください。

海外生活で得た感覚や、自分探しで出会った世界など、これまでに自分が体験したことすべてと、今、自然のなかで感じるインスピレーションを総動員しながら、和紙という伝統の素材を新しい手法で形にしていきたい。そして、和紙は古いと感じている若い人たちにも「欲しい」と思われるよう、また、和紙をあまり知らない海外の人たちにも、この素晴らしい素材を広めていけたら、と思っています。


佐藤さんおすすめの地元スポット

シルク博物館

シルク博物館

観音水

観音水

文化の里休憩所

文化の里休憩所


りくう
http://www.requ.jp
REVALUE NIPPON PROJECT
http://nakata.net/rnp/
aeru
https://a-eru.co.jp/

佐藤友佳理(さとうゆかり)さん

りくうデザイン代表。ロンドンでモデルとして活動し、帰国後桑沢デザイン研究所卒業。自身が育った手漉き和紙の産地である内子町五十崎にて、新しい手法の和紙製作に取り組み始める。2012年よりアトリエを名水百選「観音水」の湧く、西予市宇和町明間(あかんま)に移す。和紙インテリア、オーダーメイドのタペストリー・建具などのデザイン・製作を国内外に向けて行う。


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